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丸山眞男講義録〈第3冊〉政治学 1960

  • 著者:
  • 出版日:
  • 出版社/メーカー: 東京大学出版会
  • カテゴリ: Book
  • ISBN: 4130342037

本書は、政治学者の丸山眞男が東京大学で行った政治学の講義を、丸山自身の講義ノートと聴講者のノートに基いて再現した講義録である。

本書は、通常の政治学の教科書とは少々異質な構成になっているようだ。私が教養科目などで学んだ政治学で使っていた教科書では、政治体制からはじまり、政党がどのような役割をはたすか、または選挙制度の種類など、政治体制とそれを維持するための政治制度の解説が中心となっていた。

しかし、本書はそれとは全く異なり、まず個人が政治に対してどのような態度をとるかという人間心理の話から始まる。政治に関心を持たない人(非-政治的人間)、さらに政治を嫌悪する人(反-政治的人間)、むしろ政治に極端に参加する人(過-政治的人間)。こういう具合に個人の政治的態度を丸山はまず分析していく。次に、丸山はこうした様々な政治的態度をとる人同士がどんなネットワークを築いていくかを考察する。こうしたネットワークは、ある政治的イシューが起きると組織化されるようになり、やがては政党や政体が生まれるようになる……と続いてく。

つまり本書は、既にできあがった政体や政治実務者から政治を論じるのではなく、あくまでも私たちと同じ個人の心理からスタートしてボトムアップに政治が生まれる様を描くことで政治を論じるのである。

現代では、こうしたアプローチはむしろ社会心理学に分類されるのかもしれない。おそらく、スタンダードな政治学の教え方ではないだろう。しかし、本書を独立した読み物として読むならば、この構成は人々にとって非常に入りやすいのではないだろうか。

大半の人の政治的イシューとは、まずなによりも「自分は政治にどう関わるのか」という、コミットメントの問題であるはずだ。そこが解決されないかぎりは、いくら政治について優しく語られても遠い世界の話にしかならない。そう考えれば、本書は大半の人々の現実と政治家たちの世界をつなげていく格好の書物となるのではなかろうか。

実は本書で取り上げている講義には2つの特色がある。まず、本書に収録された講義は、丸山が生涯でただ1度だけ担当した政治学の講義であるという点。そして、この講義が行われたのが安保闘争が終結した直後に行われたという点である。きっと安保闘争に情熱的に参加した学生も聴講していたことであろう。まさに政治と向き合った若者に、戦後日本の代表的な政治学者が政治とはなんたるかを語っていたわけである。

既に現実の政治と向き合い、戦った若者に、なぜ丸山はあえて「個人が政治へ向き合う様」から政治学の講義をはじめたのか。その理由を行間から読むのも、また本書の面白さの1つである。

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