先に紹介したイヴァン・イリイチ『脱学校の社会』(書評)で述べられている教育論は、現代に照らして考えれば生涯学習論と親和性が高い。例えば、イヴァン・イリイチは優れた教育制度が持つべき目的として次の3つを挙げている。
「第一は、誰でも学習をしようと思えば、それが若いときであろうと年老いたときであろうと、人生のいついかなる時においてもそのために必要な手段や機材を利用できるようにしてやること、第二は、自分の知っていることを他の人と分かちあいたいと思うどんな人に対しても、その知識を彼から学びたいと思う他の人々を見つけ出せるようにしてやること、第三は公衆に問題提起しようと思うすべての人々に対して、そのための機会を与えてやることである。」 (『脱学校の社会』p.140-141)
以上の3つの教育目的のうち、第1の目的についてはそのまま生涯学習支援の目的につながっている。第3の目的については、言論の自由を保障するものであり、社会教育とのつながりを見いだせる。
イリイチの教育制度論の独自な点は教える側の支援を教育目的に挙げている点である。通常、教育制度は学ぶ側の便益を考えるものであり、教育者とはそのための人的資源である。しかし、イリイチの視点では教育の便益を受けるのは学習者だけでなく教育者も対象に入るのである。つまり、イリイチにとって教育の実践は両者が共に便益を享受する状態なのである。
こうした考え方から、イリイチは教育に必要なのは学習資源と学習者、教育者と学習者の関係構築を支援する環境であると説き、良好な関係を構築するためのマッチングシステムを新たな学習支援の形として提案するのである。
イリイチの脱学校論は、かつては学校制度批判の理論基盤として持ち上げられていた。しかし今考えるとするならば、ソーシャル・ネットワークを活用した生涯学習支援制度などのようなアイデアの検討に援用することができるのではないだろうか。
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名前:常川真央
筑波大学図書館情報学メディア研究科で図書館情報学を学ぶ。2014年4月より専門図書館員としてとある研究所に勤務。RubyとJavaScript使い。短歌の鑑賞と作歌が趣味です。
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