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ウェブという言葉を聞いて物理的な網の目を思い浮かぶ人は現代ではほとんどいないだろう。現代ではウェブといえば World Wide Web の略称となる。

World Wide Web 意外にもウェブ=網の目という比喩は非常に多く使われている。そもそも、WWWが登場するはるか以前に星新一はWWWに非常に類似した電話回線ネットワークを題材にした小説を書いており、その小説はなんと『声の網』というタイトルがついている。技術だけではなく比喩表現も先取りしていたのだ。

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ウェブという比喩は物事の関係性を表す汎用的な力を持っている。『知識の社会史』という本では、19世紀の学者が階層的な知識分類体系が不完全であると批判し、知識の関係を表すのに網の目の構造の図を描いている。

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ウェブという言葉を直接的に使用している例としては、イヴァン・イリイチの『脱学校論』とハンナ・アーレントの『人間の条件』の2つが思い浮かぶ。

イヴァン・イリイチは学校制度が人類が主体的に学習する能力を衰退させるとして批判し、これのオルタナティブとして「ラーニング・ウェブ」という誰もが自由に学習コンテンツにアクセスして学習が可能な環境を提唱した。これが現代のオープンコースウェアやMoocsなどの運動へ波及し、まさにウェブの上で実現化されつつある。

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アーレントもまた、20世紀の人間のあり方が生命維持のための活動(=労働)を基軸として捉えられていることを批判し、人間が人間であるための政治的活動を支えるための言論空間として「ウェブ」と呼ばれる概念を提唱している。

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私がこれまで読んだわずかな本の中でもこれだけ例があるのだから、人類の歴史のなかで「ウェブ」を比喩として語った物事は無数にあるに違いない。

このような例に共通するのは、これらが中央集権的な制度に対抗して生み出された概念であり、それはまさしく現代のウェブの基本的なコンセプトと合致する。つまるところ「ウェブ」は人類が潜在的に思い浮かぶ普遍的なイメージなのだろう。

もしかしたら、いままでの人類の歴史の中でまだ World Wide Web と接続していない「ウェブ」の概念があるのかもしれない。そうだとしたら、 World Wide Web をこれから発展させるのはエンジニアではなく、まだ接続されていない既存の概念を紹介する人文社会学系の人々がそのきっかけとなるかもしれない。

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